非上場株式の評価はどう変わる? 類似業種比準方式の見直し議論

オーナー企業の相続や事業承継において重要となる「取引相場のない株式」の評価方法について、大きな見直しが検討されています。

国税庁では令和8年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しており、8月20日の第5回会議では、類似業種比準方式の存置は困難ではないかとの考え方や、規模別区分を廃止し、広範な企業を共通の評価方式で評価することなどが、見直しの方向性として示されました。

さらに、経済産業省も令和9年度税制改正要望として「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」を提出しています。非上場株式の評価制度は、大きな転換点を迎える可能性があります。

現在の非上場株式の評価方法

現在、非上場株式は、株主の区分や会社規模などに応じて評価方法が決まります。

同族株主等が取得する株式については、会社規模などに応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」、または両者の併用方式により評価するのが基本です。

特に大会社では、上場会社の株価、配当、利益、純資産などを基礎として評価する類似業種比準方式が中心となっています。

この仕組みに対して問題を提起したのが、令和6年11月に公表された会計検査院の検査報告でした。

類似業種比準価額と純資産価額には大きな差

会計検査院が調査したところ、類似業種比準価額の中央値は11,622円、純資産価額の中央値は42,648円でした。

つまり、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の27.2%という水準です。

さらに、比較対象となった612社のうち477社、77.9%の会社で類似業種比準価額が純資産価額の半分未満となっていました。

会社規模別に見ても、純資産価額に対する実際の申告評価額の割合の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍となっています。

こうした結果を踏まえ、会計検査院は、異なる規模の会社間の公平性や社会経済の変化などを考慮し、評価方法をより適切なものとするよう検討する必要性を指摘しました。

類似業種比準方式がなくなる可能性も

国税庁は令和8年4月から有識者会議を開催し、非上場株式の評価方法について検討を進めています。

特に注目されるのが、8月20日に開催された第5回会議です。

国税庁の資料では、

「規模別の区分を廃止し、広範な企業を共通の評価方式で評価すること」

さらには、

「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」

という、かなり踏み込んだ方向性が示されています。

代わって検討されているのが、企業の収益力を重視するインカムアプローチです。

具体例として「残余利益方式」が示されており、会社の簿価純資産をベースに、その会社が通常期待される利益をどの程度上回っているかという「超過収益」を加減して株価を算定する考え方です。

収益力の高い会社では簿価純資産を上回る評価となる一方、赤字企業や低収益企業では簿価純資産を下回る評価となることも想定されています。

ただし、これはあくまで「仮に残余利益方式を採用した場合」の検討段階のイメージであり、新しい評価方式として決定されたものではありません。

経済産業省は事業承継への影響を懸念

こうした国税庁の検討に対し、経済産業省は令和9年度税制改正要望の中で、見直しによって多くの企業に影響が及ぶ可能性を指摘しています。

そのうえで、

企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要

との立場を示しました。

評価方式間のかい離を利用した租税回避スキームなどに対応する必要がある一方、通常の事業活動によって成長してきた企業まで株式評価額が大きく上昇すれば、後継者への株式移転が難しくなり、円滑な事業承継を阻害する可能性があります。

まさに、評価の公平性と円滑な事業承継をどう両立させるのかが、今回の見直しの重要なポイントといえます。

WAT’mの視点 ― 現時点で慌てる必要はないが、動向には要注意

今回の議論を受けて、「類似業種比準方式がなくなるのであれば、今のうちに株式を贈与した方がよいのでは」と考えるケースも出てくるかもしれません。

しかし、令和8年9月現在、新しい評価方式が決定したわけではありません。国税庁の有識者会議で示されている内容も、現時点では検討段階です。

また、評価方式が変更されたとしても、すべての会社の株価が上昇するとは限りません。収益力、純資産、保有資産などによって影響は異なると考えられます。

したがって現時点では、見直しを前提として拙速に株式移転を行うというより、自社株式が現在どのように評価されているのかを把握したうえで、今後の制度改正を注視することが重要です。

非上場株式の評価制度が大きく変われば、事業承継や相続対策にも直接影響します。令和9年度税制改正に向けた議論を引き続き確認していく必要がありそうです。

執筆:川崎 伸悟|WAT’m税理士法人 代表社員・税理士

参考資料

・国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
・国税庁「第5回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料」
・会計検査院「取引相場のない株式の評価について」
・経済産業省「令和9年度税制改正要望―取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」