政府は令和8年9月15日、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定しました。
その後、令和8年10月9日には関連法案が閣議決定され、第222回国会に提出されています。法案では、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を1%(国・地方合計)に引き下げることが予定されています。
国税庁も9月15日に特設サイトを開設し、Q&Aやパンフレットを公表しています。10月には説明動画や消費税申告書様式のドラフトも追加され、制度の実施を前提とした実務対応が具体化してきました。
対象となるのは現在8%の飲食料品
今回、税率1%の対象となるのは、原則として現在の軽減税率8%の対象となっている飲食料品です。
現在の軽減税率の対象は、酒類や外食を除く飲食料品の譲渡です。したがって、制度が法案どおり成立した場合も、対象範囲そのものを大きく変えるのではなく、現在8%となっている飲食料品の税率を1%に引き下げる仕組みになります。
一方で、外食や酒類は引き続き標準税率10%の対象となる予定です。
なお、現在8%の軽減税率が適用されている一定の新聞については、今回の引下げ対象には含まれず、8%のままとなる予定です。
そのため、飲食店や食品小売業では、
- 店内飲食は10%
- 持ち帰りの飲食料品は1%
というように、これまで以上に税率差が大きくなる場面が生じます。
レジや販売管理システムの改修が必要に
法案どおり実施された場合、早めに準備が必要になるのは、飲食料品を販売する事業者です。
これまで10%と8%を区分していたレジや販売管理システムについて、令和9年4月1日以降は、飲食料品について新たに1%で処理できるよう設定する必要があります。
スーパーやコンビニだけでなく、飲食店、食品卸売業、EC事業者など、飲食料品を取り扱う幅広い事業者に影響します。
特に飲食店では、同じ商品であっても店内飲食とテイクアウトで税率が異なるため、POSレジや注文システムの設定を事前に確認する必要があります。
政府も、税率引下げに伴い、レジや会計システム等の改修などの準備が必要になることを案内しています。
請求書や会計処理も税率区分に注意
消費税の申告では、税率ごとに売上げや仕入れを区分して計算します。
現在も10%と8%を区分して処理していますが、飲食料品の1%が加わることで、対象期間については税率区分がさらに複雑になります。
国税庁はすでに税率引下げに対応した消費税申告書様式のドラフト版を公表しており、申告実務についても制度変更を前提とした準備が進められています。
事業者側でも、
- 会計ソフトの税区分
- 請求書やレシートの表示
- 売上・仕入データの税率別集計
- 経理担当者への周知
などを事前に確認しておく必要があります。
令和9年4月1日をまたぐ取引については、どの時点の税率を適用するかという問題もあるため、制度施行前には国税庁Q&Aなどで具体的な取扱いを確認することが重要です。
簡易課税を使っている事業者にも特例
簡易課税制度は、実際の仕入税額ではなく、売上げに一定のみなし仕入率を掛けて仕入税額控除を計算する制度です。
今回の税率引下げに伴い、飲食料品の譲渡を行う事業者については、簡易課税制度の計算方法に特例が設けられる予定です。
また、一定の場合には、課税事業者選択届出書や簡易課税制度選択不適用届出書の提出時期についても特例が設けられる予定です。
そのため、飲食料品を取り扱う事業者は、「税率が下がるから納税額も単純に減る」と考えるのではなく、自社が原則課税・簡易課税のどちらを適用しているかも含めて影響を確認する必要があります。
価格表示も確認が必要
消費者向けの商品では、税込価格を表示する総額表示義務があります。
今回の税率引下げに伴い、飲食料品の総額表示についても特例が設けられています。国税庁も、税率引下げに対応した価格表示について案内を開始しています。
税率が8%から1%になった場合に、
- 税込価格をどのように変更するか
- 税率引下げ分を販売価格に反映するか
- メニュー、値札、ECサイトをどのように修正するか
などは、税務だけでなく価格設定の問題にもなります。
特に多数の商品を扱う事業者では、令和9年4月直前に対応しようとするとシステムや表示の変更が間に合わない可能性もあるため、早めの確認が必要です。
実務でどう考えるか
今回の飲食料品の消費税率引下げは、単に「8%が1%になる」というだけの改正ではありません。
飲食料品を取り扱う事業者にとっては、
レジ・会計システム、請求書、価格表示、消費税申告、簡易課税の計算
など、幅広い実務に影響します。
また、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間に限られる措置であるため、法案どおり2年間の臨時措置として実施された場合には、制度終了時にも再度、税率変更への対応が必要になります。
現時点では法案が国会に提出された段階であり、まだ成立前です。
したがって、直ちにシステム改修を確定させるというよりも、まず自社の取引のうちどの程度が対象となるのか、現在使用しているレジや会計システムが税率変更に対応できるのかを確認し、法案の成立状況と国税庁の追加情報を見ながら準備を進めることが重要です。
本記事は令和8年10月21日現在公表されている情報に基づいています。今後の国会審議等により内容が変更される可能性があります。
執筆:川崎 伸悟|WAT’m税理士法人 代表社員 / 税理士
参考資料
・内閣官房「飲食料品に係る消費税率の引下げ及び給付付き税額控除について」
・内閣官房「第222回臨時国会 国会提出法案」
・国税庁「消費税率引下げ特設サイト」
・国税庁「消費税の軽減税率制度」
