「10万円未満ならその期に全額費用処理、10万円以上なら原則として固定資産。」
経理実務ではおなじみのこの「10万円基準」が、見直される可能性があります。
経済産業省は令和9年度税制改正要望として、「減価償却資産に係る取得価額基準等の見直し」を提出しました。現在、取得価額10万円未満の資産は取得時に全額損金算入でき、取得価額20万円未満の減価償却資産については、一定の場合には「一括償却資産」として処理する方法があります。今回の要望では、物価上昇などを踏まえて、これらの基準額を見直すことが求められています。具体的な引上げ額は、現時点では示されていません。
現行制度と令和9年度税制改正要望
| 項目 | 現行制度 | 令和9年度税制改正要望 |
|---|---|---|
| 少額の減価償却資産 | 取得価額10万円未満は取得時に全額損金算入 | 10万円基準の見直しを要望 |
| 一括償却資産 | 取得価額20万円未満は3年間で均等に損金算入可能 | 20万円基準の見直しを要望 |
| 具体的な基準額 | 10万円・20万円 | 現時点では具体額は示されていない |
| 見直しの背景 | ― | 物価上昇や企業の事務負担等を踏まえた見直し |
経済産業省は、これらの基準額が長年据え置かれていることを踏まえ、物価上昇に対応するとともに、減価償却資産を個別に管理する企業の事務負担を軽減することを目的として掲げています。
そもそも「10万円基準」とは
現在、取得価額が10万円未満の減価償却資産については、原則として減価償却を行わず、事業の用に供した事業年度に、取得価額の全額を損金経理することにより損金算入できます。
たとえば9万円の事務用備品を購入した場合、通常の耐用年数にわたって減価償却するのではなく、原則としてその事業年度に全額を費用処理できます。
この10万円という基準は、企業の経理実務では非常になじみ深い数字です。
一方で、近年はパソコンやスマートフォン、各種事務機器などの価格も上昇しています。以前であれば10万円未満で購入できたような資産が、現在では10万円を超えるケースも珍しくありません。
今回の税制改正要望は、こうした物価上昇を税制上の金額基準にも反映させようというものです。
20万円未満なら「一括償却資産」という選択肢も
取得価額20万円未満の減価償却資産については、「一括償却資産」として処理する方法があります。もっとも、10万円未満の資産については、その事業年度に全額を損金算入する方法も選択できます。
一括償却資産を選択した場合、取得価額の合計額を3年間で均等に損金に算入します。
例えば、12か月事業年度の法人が15万円の備品を一括償却資産として処理する場合、5万円ずつ3年間にわたって損金算入します。
今回の要望では、この20万円という基準についても、10万円基準と同様に見直すことが求められています。
中小企業の「40万円特例」とは別の話
ここで注意したいのが、中小企業者等に認められている「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」です。
この特例については、令和8年度税制改正により、対象となる資産の取得価額が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。年間300万円という限度額は維持されています。
ただし、今回の令和9年度税制改正要望で議論されている10万円・20万円基準は、この40万円特例とは別の制度です。
10万円未満の少額減価償却資産や20万円未満の一括償却資産の制度は、一定の中小企業者等だけを対象とする特例ではありません。そのため、基準額が引き上げられれば、より広い範囲の事業者に影響する可能性があります。
なぜ今、見直しなのか
今回の要望の背景には、税制上の金額基準そのものを物価上昇に合わせて見直そうという政府全体の流れがあります。
経済産業省の要望資料では、長年据え置かれてきた基準額について、足元の物価上昇等を踏まえて見直し、企業の事務負担軽減につなげることが政策目的として示されています。
現在、取得価額が10万円以上の資産については、通常の減価償却資産として処理するか、一定の場合には一括償却資産や中小企業者等の特例を適用するなど、その金額や事業者の状況に応じた処理が必要です。
仮に10万円基準が引き上げられれば、取得時に全額を損金算入できる資産の範囲が広がり、税務上の経理処理が簡素化されることになります。
今回の論点は、単なる節税策というより、物価上昇によって実態に合わなくなってきた金額基準を見直し、経理事務を簡素化するという性格が強いといえます。
実務でどう考えるか
現時点では、10万円基準や20万円基準が実際に見直されるかどうかは決まっておらず、仮に見直される場合の具体的な基準額も示されていません。
そのため、現段階で「15万円になる」「20万円が30万円になる」といった前提で実務対応を考える必要はありません。
一方で、令和8年度税制改正では中小企業者等の少額減価償却資産の基準が30万円から40万円へ引き上げられており、今回はさらに10万円・20万円という基本的な金額基準についても見直し要望が出ています。
税制における長年据え置かれてきた「金額基準」を物価や賃金の上昇に合わせて見直す動きは、今後ほかの制度にも広がる可能性があります。
今回の10万円・20万円基準についても、令和9年度税制改正で実際にどこまで踏み込んだ見直しが行われるのか、今後の議論を注視したいところです。
本記事は令和8年9月8日現在公表されている情報に基づいています。今後の税制改正その他の検討により内容が変更される可能性があります。
執筆:川崎 伸悟|WAT’m税理士法人 代表社員 / 税理士
参考資料
・経済産業省「令和9年度税制改正要望―減価償却資産に係る取得価額基準等の見直し」
・国税庁「第2款 少額の減価償却資産等」
・国税庁「No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」
・国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」
